山本淳一

プロフィール:

専門分野は、臨床発達心理学、応用行動分析学、発達障害学。幼児、児童への臨床支援の効果を明らかにする研究を進めている。直接支援のほかに、コンサルテーションの中から実践現場(療育、保育、教育、リハビリテーション、医療)と協働で基礎科学と臨床科学の架橋を試みている。

本年度研究紹介:

発達障害児への発達支援を行う場合、発達支援者(セラピスト)は、「ターゲット行動をどのように絞り込むか」、「どのような発達支援技法を適用するか」、「その効果をどのような行動測度で評定するか」、「系統的アセスメントをどのような標準検査で行うか?」など、多くの判断と意思決定を行っている。例えば、自閉症スペクトラム障害児への発達支援プログラムは数多く開発されているが、効果が実証されている支援方法として離散試行型支援方法(discrete trial teaching: DTT)と機軸行動支援方法(pivotal response teaching: PRT)がある。それぞれの発達支援プログラムは、独自の支援カリキュラムの序列と階層、支援方法の体系、アセスメント(評価)方法から構成されている。双方とも、行動と学習の原理および、応用行動分析学の体系を背景につくられているという共通点があるため、それぞれのプログラムを統合し、個々の自閉症スペクトラム障害児に対応できる新たな発達支援カリキュラムを構成することが発達支援の実践にあたって重要である。本研究では、新たに分岐型の発達支援方法を構築し、発達支援者(セラピスト)が、ターゲット行動、支援方法、行動評価方法、アセスメント方法を選択し、決定し、修正していく条件を明らかにすることを目的とする。

平成25年度の研究成果概要:

平成25年度は「発達障がい児と保護者にとって最適な支援とは何か?」という研究テーマを設定した。文章理解の学習支援において,文章全体の繰り返し読み訓練(以下,文章全体読み訓練とする)が広範に使用されている。しかし,社会的に広く使われている支援が子どもにとって最適なものとは限らない。例えば文章を読むこと自体が困難な発達障がい児も多く存在する(Nation et al., 2006) が,そのような児童・生徒は単語単位であれば正確に読み,意味理解が可能であることも示されている(Matison & Myers, 2013)。そのため,児童・生徒の「できる」部分を拡張するために,文節単位による繰り返し読み訓練(以下,文節単位読み訓練とする)を新規に開発した (中川・大森・菅佐原・山本, 2013)。
本研究は,8名の発達障がい児と8名の定型発達児を対象に,文章全体読み訓練と文節単位読み訓練を行うことで,読みの正確性・流暢性・理解問題の正答数が向上するかを明らかにすることを目的とした。さらには,どちらの訓練がより大きな読みスキルの向上が見られるかを検討した。その結果,読みの正確性・流暢性は両訓練を通じて両群が同程度向上することを示した。一方で,理解問題の正答数においては,定型発達児群は両訓練間で差が見られなかったが,発達障がい児群は文章全体読み訓練に比べて,文節単位読み訓練の方が大きく向上した(F(2, 28) = 5.27, p < .05)。文章全体読み訓練は,定型発達児には効果的な指導法だが,「思考」のユニットが定型発達児より短いと考えられる発達障がい児に対してあまり効果的ではないだろう。しかし,子どもの保持していた「単語を読んで理解する」という行動レパートリーを把握し,拡張することで,文章理解の獲得につながることを示した。このように,子どもや保護者にとって最適な支援を「選択」できるように,様々な支援方法を示し,意思決定を促す根拠を提示していく必要がある。

平成24年度の研究成果概要:

学習面や行動面に困難さを抱える子どもに,より効果的な学習支援を提供するためには,子どもの行動レパートリーを把握して,個別の教育的ニーズに対応した支援を組み立てることが必要となる。その上で,「社会的に広く用いられる支援」と「個人に最適と考えられる支援」を比較し,決定する基礎データが必要である。
「読む」行動を支援するためには,文字列に対しての音声反応を行うだけでなく,その前提として文字列に対してのスムーズな視線の移動も必要となる。先行研究では,主に大学生の読みと視線の関係性を解明するための研究は行った。しかしながら,定型発達児や発達障がい児など、学習支援のための最適化の条件の検討は十分行われていない。平成24年度は,大学生,定型発達児そして発達障がい児を対象に,文節間にスペースがある「分かち書き文章」と,「スペースのない通常文章」を読んだ時に,読み所要時間に違いが見られるかを明らかにする研究を進めた。また,同研究に視線追跡装置を用いて,参加者間やスペースの有無で,読みの際の視線停留回数に違いが見られるかを検討した。その結果,大学生と定型発達児では,スペースの有無で読み所要時間に差は見られなかった。しかし,発達障がい児は,文章が長くなるほど,分かち書き文章の方が通常文章に比べて読み所要時間が短くなることが明らかになった。また,全参加者群において,長い文章になるほど,分かち書き文章の方が,視線停留回数が少なくなったことも明らかにした。これらの結果から,発達障がい児に対して,分かち書き文章として刺激を提示することで,文章が「読みやすく」なり,後の文章理解につながりやすいことが明らかになった。これらの結果について,カリフォルニア大学サンディエゴ校所属で,視線研究の世界的な権威であるProf. Keith Raynerと,レディング大学所属で自閉症児の読み理解研究の世界的な権威であるDr. Jessie Rickettsと研究討議を行い,将来の共同研究の基盤を形成した。


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