柏端達也

プロフィール:

哲学の文脈で「合理性」をテーマに研究を行なっています。行動や判断、意思決定はさまざまな要因によって左右されますが、それらを規範的なレベルで制約する最も一般的な要因が「合理性」です。現在私個人はとくに、存在や価値、時間といった形而上学的な問題圏と、合理性と行為をめぐる問題とが結びつく領域において、いくつかの課題を遂行しています。

本年度研究紹介:

これまで「時間を通じての合理性」というテーマのもと、とくに、存在・価値・時間といった形而上学的な問題圏と、判断や行為の合理性をめぐる問題とが結びつく領域のなかで、いくつかの研究課題を遂行してきました。存在論と価値論と合理性の問題を含むその新しい複合領域には、さらにまだいくつもの解決すべき問題があることがはっきりしてきたため、ひきつづきその新領域において研究を展開していく予定です。また、「信念体系の合理性に対する情動的要素の影響」というテーマのもとで、非合理性をめぐるオーソドックスな哲学の問題(意志の弱さ、自己欺瞞、願望的思考……等々)を探究するとともに、そうした哲学的問題に対して精神医学や神経科学における最近の知見がもつインパクトを評価する研究などもさらに推し進めています。人間という存在にとって「非合理性」がもつさまざまな意味を、主として哲学的な側面からあきらかにすることが、本研究の大きな目的です。

平成25年度の研究成果概要:

前年度にひきつづき、「時間を通じての合理性」に関する研究課題を、より具体的な形で遂行した。すなわち、自らの選好や価値観の変化が予想される条件のもとで、通時的合理性を保ちながら、いかにして適切な意思決定を行なうかという問題を、実践的な側面と理論的な側面の両方から探求した。そのテーマに関連する前年度の二つの(それぞれ中間報告的な)発表を論文にまとめ、三田哲学会編の『哲学』の第133集に「欲求の反映と人称的バイアス(Reflection Principles for Desires and Personal Bias)」として公表した(2014年3月、1〜21頁)。その論文は、いわゆる「十四才の母の問題」に関して哲学者のエリザベス・ハーマンが指摘した合理性の諸原理のあいだの齟齬について、分析を行ない、それに対する整合的な理解を提出することにより、いくつかの理論的および実践的な知見を得ることを試みたものである。また、他方で、「信念体系の合理性に対する情動的要素の影響」というテーマのもと、自己欺瞞の非合理性をめぐるオーソドックスな哲学の問題の再検討を行ない。問題状況の再構成を試みた。その成果の一部は、信原幸弘・太田紘史『シリーズ新・心の哲学III〜情動篇』(勁草書房、2014年5月)に収録された論文「自己欺瞞(Self-deception)」(159〜195頁)のなかに反映されている。

平成24年度の研究成果概要:

平成24年度は主として「時間を通じての合理性」に関する研究課題を遂行した。意思決定を行なう主体は、単にそれを行なうときにのみ存在するわけではなく、通常数十年の期間にわたり同一人物として生きつづける存在である。そのため、遠い未来における自らの選好や価値観の変化が予想される状況下で、意思決定を行なわなければならないケースが、実際に(われわれの日常において)存在する。そうしたケースの存在は、時間を通じての合理性に関して、さまざまな解決困難な問題を(理論的または実践上の問題として)ひき起こす。そうした諸問題への理論的アプローチとして、平成24年度において私は、(1) 主観的確率論において「反映原理(reflection principle)」と呼ばれている規範的原理を分析し、(2) 信念以外の命題的態度に対する当原理の妥当性を検討し、その結果を踏まえたうえで、(3) 合理性に関連するいくつかの哲学的、理論的問題の再評価を行ない、一定の知見を得た。
以上の研究の成果は、平成24年10月の三田哲学会(MIPS)哲学・倫理学部門2012年次例会(於慶應義塾大学)において「未来の態度と時間的な合理性」として、そしてまた、平成25年4月の応用哲学会第5回年次研究大会(於南山大学)において「存在の善といくつかの合理性原理──十四才の母 Harmanバージョンをめぐって──」として発表した。


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