梅田 聡

プロフィール:

主な研究分野は,認知神経科学.情動や記憶のメカニズムについての研究を進めるとともに,社会性や情動,意思決定の背後で「脳・心・身体」がどのように関わりあっているかを探っている.我々が意識できなくても,ある意思決定の背後には,心臓の動き方や発汗状態のような自律神経活動の状態が関与している.それを可能にする神経メカニズムを含め,三者の相互作用やダイナミクスを解明するための研究をさまざまな角度から進めている.
ホームページ: http://www.flet.keio.ac.jp/~umeda/

本年度研究紹介:

昨年度に引き続き,意思決定における身体反応の重要性に着目した研究を実施する.本年度は,感情予測の内容と身体反応の敏感さ,およびそれに関わりの深い人格特性との関係について調べる.さらに,意思決定や選好判断において,判断の内容が身体の動き(embodiment)として表出されるか否かに焦点を当て,身体性をより広い観点から捉えた研究を実施する.本年度も,課題遂行時には自律神経活動を中心とした身体反応,脳波を指標とした大脳皮質活動も同時に考慮し,上記の問題解明のために多角的な視点からアプローチする予定である.さらに,これまでに得られた成果を総合的な観点からまとめ,意思決定に及ぼす感情の影響について,モデルをもとにした議論を展開させていく計画である.

平成25年度の研究成果概要:

平成25年度は,感情と意思決定の背後にあるメカニズムを探る際,行動と脳機能だけでなく,身体機能である自律神経活動の役割を取り上げ,統合的な視点から「脳・心・身体」の三者関係を深く探った.これまでの研究から,日常生活における多くの意思決定に,予想以上に身体機能が関与していることが明らかであり,H25年度はその点について,脳波計や生理機能測定装置に用いて,幅広い観点から総合的に取り組んだ.実施した課題は,展望記憶における意図の想起について調べる課題,微細な感情表現の理解を調べる課題,感情の主観的感覚について調べる課題などであった.その結果,前頭前野機能と関与する展望記憶における想起に身体生理機能が強くかかわっていること,それが内受容感覚の敏感さと関連していること,さらにその敏感さは微細な表情認識の正確さにも関与すること,身体感覚の認識が乏しい人格傾向では,感情表出の程度も低下していることなどであった.また,サイコパス人格傾向において,特異的な結果が得られ,脳活動と身体生理活動が人格と深く関連していることを示すさらなるデータが得られた.各種脳部位の損傷における影響についても,一定の成果が得られ,今後,さらなる解析を実施した後に,成果を発表していく予定である.昨年度から本格的に実施している統合的な観点からの「心・脳・身体」の三者関係を探る研究は,心身問題を議論する上で重要なデータとなる可能性があり,当該分野において重要な位置づけになるものと考えられる.さらに,医学的・臨床的場面における発展にもつながるものと期待できる.

平成24年度の研究成果概要:

ファンクショナルMRIなどの脳機能画像技術の発展に伴い,感情や社会性など,「心と脳」における複雑な要因に関するさまざまな研究がなされ,多くの事実が明らかにされてきた.本研究は,そのなかでも「社会認知神経科学」や「社会脳」と呼ばれる研究領域に関連が深く,平成24年度もそのようなテーマに関する実験を実施した.実験を計画する際には,理論的背景として,「意思決定に潜在的な身体反応が深く関与している」という考え方に基づき,不安やストレスといった,社会的な場面において生起するさまざまな要因の詳細な影響について調べた.本研究では,さまざまな感情強度を持つ顔表情を被験者に提示し,自身の身体内部状態の感覚である内受容感覚との関連について調べた.その結果,正確な内受容感覚を持つ被験者は,特に悲しみや幸福の表情の認識が敏感であるという結果を得た.さらに,悲しみ表情への誤った反応は,社会不安のレベルとも関係することが明らかになった.これらの結果から,内受容感覚の正確さが他者の表情をどの程度強く感じるかを左右する可能性が考えられた.本研究のように,統合的な観点から「心・脳・身体」の三者関係を重要視し,身体機能のなかでも,特に精神機能と深い関係があると考えられる自律神経活動を心理的活動と関連づける試みは,心身問題を議論する上で重要なデータとなる可能性があり,当該分野において重要な位置づけになるものと考えられる.


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