納富信留

平成26年度の計画:

平成26年度は、古代ギリシアの哲学に関して、以下の二つの課題に取り組む。
まず、4月末に日吉キャンパスで「プラトンとレトリック」という国際シンポジウムを開催し、哲学におけるレトリックの扱いを再検討しながら社会的行動判断・意思決定の問題を考えていく。この国際学会には、全世界から30名ほどの研究者が来日し、日本からの参加者と合わせて3日間にわたって議論を行う。
また、前年度に引き続き、Richard Seaford, Money and the Early Greek Mind: Homer, Philosophy, Tragedyの研究と翻訳作業を、古代史研究者、宮崎亮、佐藤昇、上野慎也の三氏とともに続けていく。本年度中に翻訳作業を終えることを目指している。

平成25年度の研究成果概要:

社会的行動判断・意思決定の理論的基礎は、古代ギリシアの哲学に求められる。平成25年度は、アリストテレスの「誤謬論」研究、及び、古代の「貨幣」と思考・行動の関係、という二つの課題に取り組んだ。
 まず、人間の思考判断が「どう誤るか」を論理学の枠内で論じるアリストテレスの論考『ソフィスト的論駁について』(Sophistici Elenchi)は、現代の「批判的思考」(critical thinking)にとっても重要な古典でありながら、日本での研究は皆無であり、世界的にも関心が低い。納富はこの著作の新訳(註・解説付き)を準備した。2013年から刊行が始まった岩波書店「アリストテレス全集」の第三巻として、2014年中に出版される。
 また、西洋古代社会に登場し普及した「貨幣」は単に経済や社会システムだけでなく、人間の思考や文化や行動様式を大きく変えたと言われる。その側面を包括的に研究した、Richard Seaford著Money and the Early Greek Mind: Homer, Philosophy, Tragedy(2004, CUP)が、世界的にも注目されている。この学際的な研究主題を、西洋古代史の専門家である、宮崎亮、佐藤昇、上野慎也氏とグループをつくって、研究会で議論しながら翻訳作業を始めている。

研究紹介:

思考と行動判断のメカニズムをめぐる哲学的考察は、古代ギリシアの哲学から始まっている。本研究では、アリストテレスの哲学体系、及び、古代の「貨幣」と思考・行動の関係、という二つの課題に取り組んでいく。まず、動物の生態を自然学として解明することで、人間の行為や倫理に範囲を広げていった前4世紀のアリストテレスの理論枠組みは、現代にも大きな影響と新たな示唆を与えている。本研究では、アリストテレス哲学の全体像、とりわけ「論理学、自然学、倫理学」の関係を総合的に見ることで、現代の理論へのヒントを探りたい。2013年秋から半世紀ぶりに、新たな日本語版『アリストテレス全集』が岩波書店から刊行され始める(申請者も論理学著作を担当している)。翻訳成果も検討しながら、広く他分野や現代の研究者と意見交換を図っていく。第2に、西洋古代社会に登場し普及した「貨幣」は単に経済や社会システムだけでなく、人間の思考や文化や行動様式を大きく変えたと言われる。その側面を包括的に研究した、Richard Seaford著“Money and the Early Greek Mind: Homer, Philosophy, Tragedy”(2004, CUP)を古代史の専門家たちと翻訳しながら、詳細に検討していく。


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